佐藤守弘「人類のビオトープ——風景とアントロポクラシー」
- 日本記号学会第42回大会:記号論の行方——モビリティ・人新世・ケア
- セッション2:人新世の風景
要旨
美術史家E・パノフスキーは、幾何学的遠近法を生みだしたルネサンス期をアントロポクラシー Anthropocracy、すなわち「人間による支配」と呼んだ。人間が自らを取り巻く環境を計測=操作可能なものとして捉えはじめたという点において、それを人新世 Anthropoceneの起点のひとつと考える論者もいる。確かに狭い意味での「風景」——すなわちルネサンス以降のヨーロッパで発展した環境を表象するモード——が、遠近法による主客の分離を前提としている以上、それは人新世という枠組みと無関係ではないはずである——そう考えると「人新世の風景」という言い方自体が同語反復的なのかもしれない。本発表では、人間と自然の境界づけの原理をE・サイードの言う「心象地理 Imaginative Geography」に求めつつ、絵画、写真、庭園などの表象メディアを参照して、風景がどのように「自然」なるものを構築/定位してきたのかを辿るとともに、〈植物〉をキーワードに風景のオルタナティヴを探ってみたい。
参考文献
- 赤瀬川原平、藤森照信他(1988)『京都おもしろウォッチング』とんぼの本、新潮社
- ベルティング、ハンス(2014)『イメージ人類学』仲間裕子訳、平凡社
- クレマン、ジル(2015)『動いている庭』山内朋樹訳、みすず書房
- 同『庭師と旅人——「動いている庭」から「第三風景」へ』エマニュエル・マレス監修、秋山研吉訳、
- 畠山直哉(2002)『Underground』メディアファクトリー
- へディガー、ハイニ(1983)『文明に囚われた動物たち——動物園のエソロジー』今泉吉晴、今泉みね子訳、思索社
- 石川初(2018)『思考としてのランドスケープ 地上学への誘い──歩くこと、見つけること、育てること』LIXIL出版
- 川島昭夫(2020)『植物園の世紀——イギリス帝国の植物政策』共和国
- 国立国際美術館、岩手県立美術館(2000)『畠山直哉』淡交社メディアファクトリー
- Lepenies, Philipp (2018), "The Anthroposeen: The Invention of Linear Perspective as a Decisive Moment in the Emergence of a Geological Age of Mankind," European Review, Vol. 26, No. 4, 583-599.
- Mirsoeff, Nicholas (2012) "Visualizing the Anthropocene," Public Culture, 26:2, 213-232
- McKee, Yates (2011), “Art History, Ecocriticism, and the Ends of Man,” Oxford Art Journal, Vol. 34 No. 1, 2011, 125-129
- 西村清和(2011)『プラスチックの木でなにが悪いのか——環境美学入門』勁草書房
- 同(2012)「風景の美学」、同編『日常性の環境美学』勁草書房
- パルソン、ギスリ(2021)『図説 人新世——環境破壊と気候変動の人類史』長谷川眞理子監修、梅田智世訳、東京書籍
- パノフスキー、エルヴィン/アーウィン(2009)『〈象徴形式〉としての遠近法』木田元監修、川戸れい子、上村清雄訳、ちくま学芸文庫、筑摩書房
- 同(1971)『視覚芸術の意味』中森義宗他訳、岩崎美術社
- サイード、エドワード・W(1993)『オリエンタリズム』板垣雄三、杉田英明監修、今沢紀子訳、平凡社ライブラリー、平凡社
- シャーマ、サイモン(2005)『風景と記憶』高山宏 、栂正行訳、河出書房新社
- 瀬戸口明久(2013)「境界と監視のテクノロジー——自然と人工のあいだ」『情況』第4期13号(別冊 思想理論編 第3号:テクノロジー・テクノクラシー・デモクラシー』、43-57
- 篠原雅武(2018)『人新世の哲学——思弁的実在論以後の「人間の条件」』人文書院
- 高山宏(1995)『庭の綺想学——近代西欧とピクチャレスク美学』、ありな書房
- Tsing, Anna (2017), "Moving plants: appreciating Koichi Watanabe," Line Marie Thorsen, ed., Moving Plants, Narayana Press, Rønnebæksholm, Næstved, 21-26
- 渡邊耕一(2015)『Moving Plants』青幻舎
- 山内朋樹(2013)「「動いている庭」から「野原」へ——ジル・クレマンにおける風景と環境」、『立命館言語文化研究』25-1