- 講読の目的
- 私たちは日常生活のあらゆる局面において、写真――および写真術から派生したさまざまな映像メディア――に囲まれ、それらから何らかの「意味」を汲みとり、情報を得ている。では、私たちは、写真の意味をどのようにして理解しているのだろうか。
- もちろん、ロラン・バルトが「コードなきメッセージ」と呼んだ写真は、それだけで多くのことを語る。いや、過剰に語りすぎるといってもいいかもしれない。
- 過剰に語る写真の意味を規制し、そのメッセージを整理して一本化するもの、それこそが写真が置かれる文脈/コンテクストであるといってもいい。ここで言うコンテクストとは、写真に付けられたキャプション、写真が挿入される誌面、写真が展示される美術館などなど、相当に幅広いものを含んでいる。
- 今回の講読では、二つの論文を読み進めていきたい。一つは、文化理論家スチュアート・ホールによる「報道写真の決定」、もう一つは、美術批評家ダグラス・クリンプによる「美術館にとっては古い/図書館にとっては新しい主題」である。前者の論文は、イギリスにおいてカルチュラル・スタディーズという研究領域を大成させた重要人物によって書かれたもので、ロラン・バルトやルイ・アルチュセールの理論を援用しながら、報道というコンテクストにおいて、写真の意味がどのようにして決定されるのかについて、考えるものである。
- 後者の論文は、80年代のポストモダン美術批評を、『オクトーバー』誌において、ハル・フォスターやロザリンド・クラウスらとともに牽引した著者による写真論であり、さまざまな可能性を秘めたメディアである写真が、美術館や図書館というコンテクストのなかで、モダニズム的な「美」の枠組みに押し込められていく様子を、批判的に考察した論文である。
- 以上、二つの論文の講読を通じて、写真と「場」の関係についての諸問題を、受講生とともに考えていきたい。
- 予定
- イントロダクション:モノの秩序――写真とコンテクスト
- 講義:コンテクストと意味作用――視覚文化の記号論
- 講読:スチュアート・ホール「報道写真の決定」1
- 講読:スチュアート・ホール「報道写真の決定」2
- 講読:スチュアート・ホール「報道写真の決定」3
- 講読:スチュアート・ホール「報道写真の決定」4
- 講読:スチュアート・ホール「報道写真の決定」5
- 講義:写真と展示――モダニズムとポストモダニズム
- 講読:ダグラス・クリンプ「美術館にとっては古い/図書館にとっては新しい主題」1
- 講読:ダグラス・クリンプ「美術館にとっては古い/図書館にとっては新しい主題」2
- 講読:ダグラス・クリンプ「美術館にとっては古い/図書館にとっては新しい主題」3
- 講読:ダグラス・クリンプ「美術館にとっては古い/図書館にとっては新しい主題」4
- 講読:ダグラス・クリンプ「美術館にとっては古い/図書館にとっては新しい主題」5
- 講読テクスト
- Stuart Hall, "The Determinations of News Photographs," Stanley Cohen and Jock Young, eds., Manufacture of News, London: Constable, 1973.
- Douglas Crimp, "The Museum's Old/The Library's New Subject," On the Museum's Ruins, Cambridge, MA: MIT Press, 1995.
- 評価
- 翻訳発表=50%、期末レポート=50%
- 主要参考文献
- Stuart Hall, ed., Representation: Cultural Representations and Signifying Practices
- ロラン・バルト『現代社会の神話―1957 (ロラン・バルト著作集 3)』
- ルイ・アルチュセール他『アルチュセールの「イデオロギー」論 (プラチック論叢)』
- ダグラス・クリンプ「美術館の廃墟で」、ハル・フォスター編『反美学―ポストモダンの諸相』
- その他、クラスでおいおい挙げていきます。